久々にスーツに袖を通す。
一般企業に努めている人にとって、スーツを着るのは日々のルーティーンワークの一環でしかないのかもしれない。
しかし、いち理学療法士がスーツを着る機会と行ったら学会か就活ぐらいだ。
そして、僕は面接のためにスーツを着ている。
一箇所目の面接は、規模の大きな訪問看護ステーションだ。
リハにとっては有名所で、看護師の数よりもリハスタッフのほうが圧倒的に多い職場だ。
研修会も充実しているし、インセンティブが豊富で2年目以降は年収600万以上も夢ではない。ネックなのは、家からちょっと遠いというところくらいだ。
久々の就活一件目だ。当たり前だが緊張する。
都内のビルまで電車で1時間かからないくらい。
気持ちは落ち着かない。
ビルのインターフォンで呼び出す。
「本日面接の約束をしておりました正村と申します。」
「少々お待ち下さい。」
担当の女性スタッフがでてくる。
「担当者が参りますので、ここの椅子に座ってお待ち下さい。」
受付前の椅子に座って暫く待つ。
やはり、スーツは落ち着かない。首元が少し苦しい気がする。
数分後、先程の女性が案内してくれる。
案内されたのは、小さな会議室。
「こちらにどうぞ。」
会議室の机の、奥側の席に案内される。
僕は鞄から履歴書を取り出す。
すると、グレーのトレーナーを着ている30代くらいの男性が会議室に入ってくる。
先ほどの女性はスーツだが、こっちの男性はちょっとラフだ。
そして面接が始まる。
男性が「なにか聞きたいことある?」
いきなり、その質問か。てか、態度でかいなと心でつぶやく。
明らかに男性の方は横柄な態度をとっている。こっちのほうが、若いし、経験年数も少ないけど、自分の部下でもないのにどうなんだ。
「社員の中で、中途で活躍している方はいらっしゃいますか?」
とりあえず事前に考えていた質問をいくつかぶつける。
「社員に対してどのような活躍を期待しますか?」
「社員をどのような形で評価しますか?」
とりあえず、この3つの質問は全部の会社できいてみることに決めていた。
同じ質問をすることで、会社ごとの特徴が見えやすくなるからだ。
会社がどのような方向性を目指していて、社員にどのような活躍を期待しているのかと言うのは、今後自分がどのような評価基準で、認められるのかを知る尺度になるので聞いておいたほうがいい。
「転職のすすめ」という本を読んでいたので、参考にしていたんだ。
訪問看護にありがちな話だが、評価基準は件数になりがちだ。
ここの会社も、例にもれずそうだった。
そして、僕の訪問経験に興味を持ったようだ。
「訪問の経験あるんだって?」
「はい。だいたい3年位の経験があります。」
3年の経験というのが、お気に召さなかったのか男性PT(さっきの人は、PTで現場の経験があるらしい。)は更に聞いてくる。
「緊急の対応とかはあるの?」
「いいえ。いままで運が良かったのかそういう経験はありません。」
「俺はあるよ。家に行ったら、お風呂場で溺死してたんだよね。そういうとき、どうしたらいいかわかる?」
「溺死してるんですよね?それなら、あんまり触らないほうがいいと思います。」
いきなりだな。と思いつつ答える。
「とりあえず、バイタルの確認でしょ!」
ひっかけ問題かよ!と心のなかで突っ込む。お前さっき溺死してたらっていったよな!と心のなかで突っ込む。こんなところで働けるのか俺とも不安になった。
なにはともあれ面接は問題なく終わった。
こんなちゃんとした面接は、最初の就職のときにもしなかったかもしれない。
いい経験だけど、なかなか大変だな。
夕方になり帰宅ラッシュになる前に家路についた。
<就活は続く>