書評

<書評>死と向き合うことで命と向き合う『最期の医者は桜を見上げて君を想う』

今回紹介する本は、「最後の医者は桜を見上げて君を想う」二宮充弘著。TO文庫。

この本で扱っているテーマは「死」です。

それぞれの章で完結していますが、3つの章を通して読むことでそれぞれの登場人物の信条がより理解できると思います。

本の概要

目次の紹介です。第1章とある会社員の死。第二章とある学生の死。第3章とある医者の死。となっております。

目次の通り、それぞれの章ではそれぞれの患者さんはなくなってしまいます。

人が死と向き合うときにどのような姿勢で死を迎えるのか。そのような視点を持つことで逆説的にどう生きているのかということを考えさせられるような本となっています。

医療の視点から見た「死」

この本はどちらかと言うと医療側の視点が描かれているのではないかと感じます。

医療従事者として感じている、もやもやとした気持ちをこの本では文章で表してくれています。

日常の仕事で人間を相手にしているはずなのに、機械的にベルトコンベアに乗せるような対応をしなくてはならない。

実際の医療の現場では、そのような場面も多いと思います。

僕は、在宅の仕事が中心ですが、病院に勤務していたときのことを思い返すと、人と向き合うことができているのかと考えることもありました。

そんなときに、おそらく主人公の桐子先生の言葉が身にしみると思います。

登場人物は主人公の桐子医師、そして大学時代の同級生の福原医師。その二人の価値観の対立が中心となって進んでいきます。

その間を取り持つのが、音山医師。この3人は大学時代を共に過ごした盟友です。

その3人の掛け合いの中心にいるのはいつも患者さんです。

どの患者さんも余命が宣告されるような重たい病気にかかったかたです。そのような境遇に置かれたときにそれぞれの価値観がぶつかります。

福原医師はとても強い人物です。成績も優秀で病院内での評判も厚く、この病院の理事長の息子と言うことで、現在副院長と言う立場にも収まっています。

そんな彼の信条は病気には負けない。

死ぬまで戦い続ける。

そうすればいつの日か難病であったとしても、治るような薬や治療法が開発されるはず。

その日までは何としても生き続けるべきだ。

それに対して主人公の桐子医師は死を選ぶということも1つの選択肢なのではないか、という信条を持ちます。

福原は強い意志を持った医師で、熱い男です。

それに対して桐子はクールな男ではありますが、この人も強い意志を持った人物です。

本作の印象に残るセリフ

僕としては医療従事者側の立場として桐子の主張がとても身に染みました。

以下本文より引用です。

桐子医師と余命宣告された患者さんのやりとりを簡単に紹介したいと思います。

「1番命に関して無責任なのはあなたです。浜山さん。そもそも、あなたあればどうなりたいですか?」

「それは、元気に退院したいです。」

「もちろん。それができるなら理想ですね。では治らなかったら?」

「え?」

「質問の形を変えましょう。どこまでなら許せますか?例えばの話ですが、視覚を失う代わりに死を免れるとしたら許せますか?加えて聴覚と触覚も失うとしたら?足がなくなるとしたら?知能指数が半分になるとしたら?今までの貯金を全て失うとしたら?どこまで受け入れられますか?具体的にどこまでだったら自分の命の対価を差し出せますか?」

「それは。」

「どこまで差し出せるかとは、どこまで命に価値を見いだせるかと同義の質問でもあります。あなたにとって命とはどんなものですか。きちんと考えたことありますか。命について真剣に考えたこともないのに死にたくないと病院に来て医師にその命を委ねるのですか。」「みんながそんなことを考えて病院に来るとでも言うんですか。」

「いいえほとんどの人は何も考えずにきます。ただ漠然と再び元気で退院することだけを求めてきます。」

「そうでしょう。だからわれわれは彼らをベルトコンベアーに乗せざるを得ないのですただ余命を少しでも伸ばすことだけを目的にしたラインに載せ、工場のように動かすのみです。それが彼らの望みなのですから。」

自分で自分の人生を選択する。

この桐子先生の話はとても共感します。

この文を読んだときに、忌野清志郎とつんく♂の話を思い出しました。

二人共、喉頭がんという病気にかかりました。喉頭がんは歌手としての終わりを意味します。

この病気に対して、つんくは歌うことができなくなったとしても、家族と生きることを選び、忌野清志郎は自分の声とともに死ぬことを選んだそうです。

二人共自分の命と真剣に向き合った結果だと思います。

僕自身では、療養病棟で働いた経験もあり、そのときに自分だったらこのような形でも生きることを選ぶのかと考えることがありました。

病室のベッドで寝たきりになって、病室の天井しか見ることができず、通常の認知機能は失われ、靴から食事を摂ることもできない。

中には、家族に大切に思われており、できるだけ長く生きていてほしいという願いのある方もいらっしゃると思います。

しかし、家族の方はほとんどお見舞いにも来ず、ずっとベッドで寝たきりで意識もないような人は生きていて幸せなのだろうかと考えさせられてしまいます。

もしも、世の中の多くの人が自分の命にどれくらいの価値があるのか、自分の人生についてもっと真剣に考える機会があれば、より良い形が増えるのではないかと思います。

そして、病院側としても機械的にベルトコンベアーに乗せるような、働き方をすることが減っていくのではないかなぁと思いました。

リハビリの職員だけではなく、看護師の方なども自分の仕事に対しての虚しさなど感じている方が多いと思います。

そのような方は何に対して虚しさを感じているのかわからないというような方もいると思いますが、この本を読むことで主人公の心情や他の医師の考え方に触れることができます。

まとめ

もちろん福原医師のような生き方もあるとは思いますが、すべての人間がそのような生き方をできなくてもいいと思います。そのような考え方を持たせてくれるような本です。

あるいは、自分の家族が重たい病気になってしまった時、どのような姿勢で家族と向き合っていいか、病気と向き合っていいか、そのようなことを考えるきっかけにもなると思います。

医療従事者の方もしくはそうでは無い方にも「死」と言う誰にでも訪れるような出来事について考えるきっかけになるはずです。

「死」について考えることで命の大切さを再度、考えることができるのではないでしょうか?

オススメですので、興味のある方は読んでみてください。

Amazon PrimeのKindleで無料で読めますので会員の方はダウンロードしてみてください。

昨年には、映画化の話もありましたが、2019年12月現在の時点では、話が進んでいないように思われます。

映画化するとしたら、もっと沢山の人の目に留まると思うので、楽しみです。

最期まで読んでいただきありがとうございました。

楽しんでいただければ嬉しいです。